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赤き月に咲く花よ
赤き月に咲く花よ
مؤلف: 文月 澪

第1話 白昼夢

مؤلف: 文月 澪
last update تاريخ النشر: 2025-12-05 19:51:39

 気がつけば、どこまでも続く見渡す限りの大草原の中に、わたしはひとり佇んでいた。空は青く澄み渡り、さわさわと風が頬を撫で、草の香りが鼻をくすぐる。肩で揃えた散切ざんぎりの黒髪が靡いて、空を仰いだ。

 あぁ、夢を見ているんだなと、わたしは何の感慨も無く思う。

 こんな場所、近所には無いし、実家は一応都市圏内だ。でも、夢を見るような状況にはなかったはず。そう思い、頭を捻りながら直近の記憶を掘り起こす。

 たしか、角を曲がったら目眩がしたんだ。視界が暗くなって、それで……そこからの記憶は曖昧で覚えていない。貧血でも起こしたのかな?

 早く帰らないと、遅くなったらまた折檻される。もう慣れてしまったそれは体中に刻まれていて、それ自体よりも、くだらない事に時間を割かれるのが嫌だった。

(面倒くさいな……)

 大きく息を吐くと、不意に視線を感じ振り返る。そこには見知らぬ男性がひとり、静かに微笑んでいた。20才くらいの青年で、均整のとれた長身に金の髪と青い瞳が目を引いた。現実離れした映画俳優のような容姿に、思わずじっと見惚れてしまう。

 何も言わないわたしに対して、男性はふわりと微笑み、形のいい唇を開いた。

「佐伯 花子さん、1月4日生まれの中学3年生15才。お間違いないですね?」

   

 滑舌良く、手にしたファイルを確認しながら問う姿は事務的で、一気に現実味を帯びた。いくら夢だと分かっていても、この長閑のどかな風景とはミスマッチ過ぎて、違和感を覚えてしまう。男性が着ている服も、要因のひとつだ。

 男性はSF映画でよく見る軍服のような、タイトなパンツルックを着こなしている。それは銀とも白とも言い難い、光沢のある布地で作られていた。一歩間違えれば陳腐に見えるその服装も、男性にはよく似合っているけど、草原の中では浮いている。

 それが逆にリアルで、まるで狸に化かされたみたいだ。こういうのを明晰夢めいせきむと言うものだろうか。

 あれやこれやと思考して反応に困っていると、今度は強めに確認され、わたしは慌てて首を縦に振り応じた。

 男性はくすりと笑い、ひとつ頷いた。

「急にこんな場所に呼び出されては、混乱するのもしかたがないですね。僕はイコナ・ハインコーフと申します。貴女の担当官です。どうぞよろしく」

 聞き慣れない響きの名前に、担当官。いまいちピンとこず首を傾げると『とりあえず落ち着きましょう』と男性、イコナさんが小さく指を鳴らした。

 すると何もない空間に簡素な椅子が2脚と丸いテーブルが現れ、わたしは驚きに小さな悲鳴を上げる。

 それに気を良くしたのか、イコナさんは得意げにもう一度指を鳴らし、ティーセットを出すと紅茶を注ぎつつ座るように促してきた。

 わたしがおそるおそる席に着くと、イコナさんはにっこりと笑う。

「そう固くならずに。気を楽にしてお聞きください」

  勧められるまま、白いティーカップに口を付けると、紅茶の香りが緊張をほぐす。ほっと息を吐くわたしを見て、イコナさんは説明を始めた。

「ではまず最初に、既にお気づきかと思いますが、ここは貴女の夢の中です。貴女の身体は現在休眠中のため、夢という形で意識に干渉しています。ですから何ら怖がる事はありません」

 まるで声優のような澄んだ声で、イコナさんは言う。夢に干渉だなんて、SF過ぎでしょう。これは夢だと分かている、でも本当にわたしの夢なのか。そうであれば今の生活から逃げたいという、わたしの願望の産物なのかもしれない。

 願っても叶わない思いに自嘲しながら、続きに耳を傾ける。もう夢を見始めてから結構な時間が過ぎているのだから、今更起きたって結果は変わらないもの。なら夢に浸ってもいいじゃない。

 一時、現実から逃れても。

 大人しく聞く姿勢になったわたしを、イコナさんは柔和に眺めながら語る。

「さて本題ですが、貴女にリンゼルハイト銀河連合、協定議会より任務が課せられました。これは拒否することが出来ませんが、その対価として報奨金が支払われます」

 落ち着いてきた所に、再度落とされた爆弾。いきなり飛び込んできた拒否できないという言葉に、わたしは机を叩き叫んだ。そりゃそうだ、わたしの意志を完全に無視しているんだから。

「なっ……拒否できないってなんですか!? 任務ってそんな、一方的でしょう!? それに銀河連合……? 一体何の話をしているんですか……?」

 頭の中は疑問符だらけ。この状況も、イコナさんの言葉も、まるで意味が分からない。うるさく喚くわたしに一瞬、イコナさんの瞳が剣呑に細められた。でもすぐに笑顔に戻り、柔らかく諭す。

「落ち着いて。突然の事で驚かれたでしょう。ですが、事前に保護者の方に確認を取っています。貴女を任務に抜擢したい事、報奨金の事などに承諾を得ているのです。こちらがその書類となります」

 イコナさんが指を振ると、目の前にウィンドウが現れる。そこに、わたしは目が釘付けになった。確かに母の字でサインがされている。箇条書きされた文にも目を通せば、拒否不可の文字。赤線が引かれたそれは、重要事項を示すものだろう。

(わたし、売られた……?)

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